Series01 コーヒーと在宅ワークのあいだ
#06 夏の朝は、アイスコーヒーからはじめる
関東はいつのまにか梅雨が明けた。
朝、カーテンを開けると強い日差しが部屋いっぱいに差し込んでくる。季節はすっかり夏だ。
窓の外では、蝉の鳴き声が響いている。まだ午前中だというのに、朝から30℃を超えるような日もあって、少し動くだけで汗ばんでしまう。
数か月前まで温かいコーヒーを飲んでいたなんて、ずいぶん昔のことのように感じる。
在宅ワークの日。
仕事を始める前に必ずなにか飲み物を、手元に置いておきたくなる。
パソコンを立ち上げ、Slackの通知を確認する。
今日の予定を見ながら、午前中に終わらせたい仕事や、午後の打ち合わせのことを頭の中で整理する。
けれど、その時点ではまだ完全な仕事モードではない。
まずはコーヒーを淹れよう。
そう思って席を立つ。
キッチンでコーヒー豆を量り、ミルを回し始める。
ガラガラガラガラ…と響く音を聞きながら、頭の中ではいろいろなことが浮かんでは消えていく。
今日やる仕事のこと。
今週の家族の予定のこと。
週末の過ごし方のこと。
最近気になっているアウトドアグッズのこと。
今年のフェスに出演する、まだよく知らないアーティストのこと。
気づけば仕事とは関係のないことまでいろいろと考えているのだけれど、不思議とその時間が嫌ではない。
むしろ、散らばっていた思考が少しずつ整っていく感覚がある。
在宅ワークには通勤時間がない。
そのぶん、仕事と日常との区切りを、自分で意識して作る必要がある。
私にとって、その役目を果たしてくれるのが、コーヒーミルを回す数分間なのかもしれない。

豆を挽き終えたら、お湯を沸かし、ハンドドリップでコーヒーを淹れる。
夏になると、朝はアイスコーヒーを選ぶことが増えた。
氷をたっぷり入れたサーバーにコーヒーを落としていく。
氷がパチパチと、そしてゆっくりと溶け出す、小さな音の変化に耳を澄ます。そうすると自然と、少しずつ気分も高まってくる。
ハンドドリップで淹れたアイスコーヒーは、きりっとした苦味と豊かなコクがありながら、後味は驚くほど軽やかだ。
水出しとはまた違う、この輪郭のはっきりした味わいが好き。
冷たい飲み物なのに、豆本来の風味や香りも、しっかり感じられる。
市販のアイスコーヒーももちろん手軽でおいしいけれど、自分で淹れた一杯には、また違った楽しさがある。
同じ豆でも、挽きたてをドリップすると、香りの広がり方がまるで違う。
朝から少し気分を上げたい日に、これ以上ないご褒美だと思う。

アイスコーヒーをグラスに注ぎ、デスクへ戻る。
お気に入りは、薄手のガラスのグラス。
口当たりが軽く、コーヒーの香りもふわりと広がる。
グラスの表面についた水滴や、氷が触れ合う小さな音も涼しげで、夏らしい。
たった一杯の飲み物なのに、器が変わるだけで気分まで変わるから不思議だ。
在宅ワークでは、自分が心地よく過ごしやすい環境を整えることが大切だと思っている。
お気に入りの飲み物を用意すること。
座りやすい椅子を選ぶこと。
気分の上がる文房具を使うこと。
どれも小さなことだけれど、その積み重ねが一日の心地よさにつながっている。
朝のアイスコーヒーも、そのひとつといえる。
特別なテクニックというわけでもない。
一杯のコーヒーを淹れる時間があるだけで、気持ちのベクトルが自然と仕事へ向かっていく。
慌ただしい日もあるし、思うように集中できない日もある。
それでも、ミルを回し、香りを感じながらアイスコーヒーを用意する時間は、私にとって一日のスタートを整える小さな習慣になっている。
今日もまた、薄張りのグラスに氷を入れ、アイスコーヒーを注ぐ。
窓の外には、まぶしい夏の空。
グラスをひと口傾けるころには、不思議と気持ちも仕事へ向かっている。
夏は暑くてちょっと苦手な季節だけれど、この朝の一杯だけは、毎年少し楽しみにしている。
この夏、毎朝のように手に取っているのは、薄張りのグラス。
アイスコーヒーの香りや口当たりがより感じられる気がして、夏の定番になっている。

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